(コラム)徳島県神山町の学生寮「あゆハウス」から見る 地域と住まいのコミュニティデザイン

森山さん写真

地方創生都市のロールモデルとして名前が挙がることも多い、徳島県神山町。IT企業のサテライトオフィスが多く集積し、2022年8月31日には、起業家育成を目指す私立の高等専門学校「神山まるごと高専」の開校が事実上決定するなど、全国的にも注目を浴びている地域です。

神山町にはもう一つの学校、徳島県立城西(じょうせい)高等学校神山校があります。

同校には「あゆハウス」という町営寮があり、少人数制の学生寮として営まれています。ここでは生徒同士だけでなく、地域の人たちと生徒たちも一緒につながる「住まいのコミュニティ」が実現されています。

LEGIKAと神山町の関係は、さかのぼること5年前のことです。

学生寮「あゆハウス」のコミュニティデザインを、2017年から約2年間にわたりLEGIKA(当時、NEWVERY)がプロデュースしたことから始まりました。

 

今回対談する森山円香(もりやま まどか)さんは、あゆハウスの設立メンバーのひとりです。

森山さんは、県立城西高等学校での取り組みをまとめた本『まちの風景をつくる学校』(晶文社)を2022年6月に上梓されました。同書の出版を記念し、LEGIKA代表の小崎がお話をうかがいます。

 

対談した人

森山 円香(もりやま まどか)

一般社団法人神山つなぐ公社理事・ひとづくり担当(2016年4月~2022年5月)。在任中は農業高校でもある、県立城西高等学校のカリキュラム編成を担った。その軌跡をたどった本『まちの風景をつくる学校』(晶文社)は、現在書店等で発売中。

 

 

あゆハウス概要

神山町に暮らすことを希望する県立城西高校神山校生のための少人数制の学生寮。徳島県神山町に所在。運営は神山町。
ただの生活の場ではなく、寮生とサポートする地域のハウスマスターが日々話し合い、自分たちで暮らしをつくっている。まちの多様な人・自然との触れ合いを通じて、自身の可能性を広げていくことを重視している学生寮である。

 

自分たちで発注書をつくる学生寮

小崎:あゆハウスは、農業高校である県立城西高等学校に通う学生向けの町営寮として2019年に設立されました。スタートから数年経ちましたが、今の様子についてお伺いできますか?

森山: 今はスタッフ6人、生徒18人で生活しています。寮では自分たちでご飯を作っているので、ちょっとした飲食店みたいな感じですね。
 この人数だと食材の買い出しは行けないので、寮生自身が発注しています。

小崎:発注から料理まで……ですか。これならお店を開けますね。

森山:最初のほうは生徒5人とスタッフだけだったので、買い出しで済んでいました。
 夕方になると、制服姿の高校生がスーパーで牛乳を買ったり、お肉を買ったりして……。

 それが今では、「家族の手料理」から「仕込み」へと変わりました(笑)

小崎:食品ロスを出さないように発注するって、結構難しいですよね。でもそうして「生きる力」を学ぶ機会が、あゆハウスの生活に溶け込んでいるのは理想的だと思います。

森山:そうですね。日常の中で寮生が「牛乳足りないね。あー、みりんも切れてるから買わなきゃ」と言いながら、発注書を書いています(笑)

 

 

寮生相互の会話によるルールづくり

小崎:設立準備期に、私もLEGIKAとして議論に参加しましたが、実際に「自炊」を自分たちで守って、持続的に継続できているのは素晴らしい点ですね。単にルールを決めるのではなく、みんなである程度の基準を設けて調整しているからでしょうか?

森山:常に何時間でも話すようにしています。規則で縛らずに、お互い話す中でみんなの認識をすり合わせていますね。

森山:ダメなものはダメなんですけど、大人が勝手にレールを敷かない。1人1人に対して「あゆハウスの一員として、あなたはどう思うの?」と、問いを立てるようにしています。

小崎:なるほど。今のお話を聞いていて、大前提となることばの意味を全員が共通で認識していると感じました。

 

あゆハウスを設立した当時のこと

小崎:あゆハウスの事例は地域と教育の領域において、お手本のような存在だと思います。その裏にある相当な努力が、発刊された書籍の中からも伝わってきました。
 実際にあゆハウス設立の計画がスタートした際、神山に住む皆さんは、どのような反応をされたのでしょうか?

森山:お金を出す町役場としては、「本当に県外から生徒が来るの?」と疑問だったと思います。

 どうなるか分からないことに投資をするのは難しいだろうな、と感じていたので……。

小崎:そんな中、町役場の人が「あゆハウスを設立しよう!」と決心されたのはなぜなんでしょう。

森山:町には、取り組みの進捗を細かく伝えるようにしていました。例えば「体験留学にこれだけ来ました」とか、「見学に何人来ました」とか。そういうことを少しずつ、何度も伝えましたね。すると何人か入寮する目途が立ったので、ようやく寮を設立する話が進んだんです。そこから初年度には、5人が入居しました。

小崎:地道にやられた結果ですね。あゆハウスの運営がスタートした2019年は、やはり大変でしたか?

森山:スタッフ側も初めてのことばかりだったので、最初はたしかに大変でした。
 翌年にはコロナもあり、色んなことが変わる時期でもあったので……。

 毎年ちょっとずつ変化がありましたね。そのたびにみんなで四苦八苦しながら、船を漕いでいた感じがします。

 

LEGIKAのプロデュースは「常に私たち目線だった」

小崎:神山では色んな取り組みについて小さなことからコツコツされていたんだなと、本を読んで改めて感じました。私が神山に訪問していた頃には、すごく多くの事例が既にあって、実力と個性を兼ね備えた魅力的なスタッフの方が沢山いらっしゃって……。だから実は当時少し不思議に感じていました。なぜ、コミュニティデザインをLEGIKAに依頼してくださったのだろうと。

森山:LEGIKAが色んな地域でコミュニティデザインのプロデュースをされている、というお話は聞いていました。その中でもやはりたくさんの学生寮を手掛けられたという点は、大きかったですね。

LEGIKAが手がけるシェア型学生寮「チェルシーハウス国分寺」

 

小崎:LEGIKAでは様々な「住まいのコミュニティ」を取り扱っているので、その点を見ていただけていたのは嬉しいです。ではLEGIKAと一緒にお仕事をした中で、印象に残っていることはありますか?

森山:やはりあゆハウスのビジョンを示してくれた、小崎さんのプレゼンですね。「これまでの寮、これからの寮」を提案してくださって。「どうしよう」と四苦八苦していた現場の私たちにとって、状況がどんどん整理されていく感覚でした。あと、資料が美しいんですよ。そこは常に見習いたいなと思いました。

 

資料の一例

 

小崎:いやあ、お恥ずかしい(笑)

森山:きれいに整理してくれていたので、「そうそうそう!」って。めちゃくちゃ助かりました。

小崎:よかった。そう言っていただけると、とても嬉しいです。私自身も資料を作る中で、頭が整理されていくので、お題をいただけたのは、私にとっても学びにつながりました。

森山:あとは、現場でやっていく私たちのことを第一にプロデュースしていただけたこと。LEGIKAがコミュニティを作ろうとするのではなく、常に私たち目線だったことはすごく大きなポイントだったと思います。

LEGIKAは「スタイリオネスト駒場東大前」(事業主:東急株式会社)の運営支援を行っている

 

小崎:そこはLEGIKAとして、とても意識しているところです。プロデュースを行う私ら自身が、自己承認欲求を満たす場であってはならないことを、私が一番大事にしています。そのため、現場の人たちが求めていて、さらに「完成した後に自走できる方法は何かな」ということを常に考えています。その点でいうと、神山の人たちは求めているものが明確でした。

森山:そうですね。やはり言葉にしないと残らないものもたくさんあるな、と感じていて。地域にしろ学校にしろ、伝え聞く習慣はあるけれど、それぞれのタイミングで人は移り変わります。卒業だったり、引っ越しだったり……。なので本を執筆していた2年間は、言葉で残すことに注ぎました。

小崎:普段やっていることを言葉にするのは、とても大事ですよね。そういったことがストーリーとなって、本の中に詰まっているなと感じました。

 

住まいのコミュニティ運営のポイントは「規模」

小崎:実は他の地域の方々から「神山について教えてよ」とよく言われるんです。本の中でもあゆハウスについて書かれていますが、次に住まいのコミュニティ運営のポイントについてお聞かせください。

森山:あゆハウスに限っていうなら、「規模」が大きなポイントですね。最大18人で、それ以上は大きくしない決断をしていました。というのも18人以上になると、ハウスマスターが気を配りながら文化をつくることが難しくなってしまうんです。

 

小崎:たしかに。学生寮の中で、ハウスマスターの役割はとても大きいですよね。あゆハウス設立メンバーの秋山さんとは、寮運営のことやハウスマスターの採用のことなど、様々な打ち合わせを重ねたのを覚えています。

森山:当時秋山さんは、神山に来たばかりだったんです。ハウスマスターの経験がない中で「人の暮らし」を取り扱うのは、非常に重たかったのではないかなと……。
 しかも1人でやっていたから、苦しかったと思うんですよね。そこに小崎さんの経験値がプラスされて、ほんとに楽しく走れたと思います。

小崎:ありがとうございます。 秋山さんとは当時「寮のビジョンがこうなら……じゃあこの資料を作ろうか」なんてやりとりもしていました。

森山:あゆハウスの文化づくりは、ハウスマスターや常勤スタッフの粘り強さがあってこそですね。さらに地域の方々の力もたくさん借りて、今があります。

 

「これからは神山を応援する立場」

小崎: 2022年5月で、森山さんは神山つなぐ公社の理事を退任されました。これからの活動について、教えてください。

森山:私は7月から海外へ行きます。なので、退任後は神山つなぐ公社を応援する立場になりました。公社も私も、お互い新しいフェーズです。

公社退任とほぼ同じタイミングで発刊となった本を手にポーズ!

 

小崎:今後、森山さんがやりたいことはありますか?

森山:「できることを増やしたいな」という気持ちになっています。とりあえず、狩猟免許は取ろうかなと(笑)

小崎:(笑) そうきましたか!

森山:実は狩猟って、「食」「農業」「環境」すべてにからんでくるんですよ。野菜もそうなんですけど、純粋に「自分で育てたものを食べるってめっちゃ幸せだな」と思って。
 さらに人にふるまって「美味しい」って言われることも、とても嬉しいんです。色んなものに依存している社会の中で、できることは自分でやっていきたいですね。

小崎:本日はあゆハウスのコミュニティ運営や森山さんご自身について、お話をうかがいました。読者の皆さんもぜひコミュニティ形成のヒントに、『まちの風景をつくる学校』を手にとってみてくださいね。

対談後、カナダで農業体験と交流をしている森山さん

 

LEGIKAへのお問い合わせ

LEGIKAでは今回お話したあゆハウスのような学生寮から、街や地域全体のコミュニティデザインを手掛けています。

住まいのコミュニティについてのご相談は、こちらからどうぞ。

 

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